僕とチチとジョージとリンデルさん
チチの恋人ジョージ

その15.

ジョージは僕が好きになったベンジーのような存在だった。みんなのアイドル
なんだ。
リンデルさんが超フレンドリイだから、ジョージの友好関係も広いんだ。
皆、ジョージが好きだった。
もちろん、僕とチチとジョージは特別の友達だったし、チチはジョージに惚れ
ていた。
ジョージもチチの事は大好きだったんだよ。
夜の散歩は毎晩のように、チチとジョージのデートになったんだ。
僕はトムボーイだったチチがジョージの前では本当に女の子らしくなって、う
れしかったんだ。

時々、パンダとキングとも同じ時間に外に出る事もあり、パンダはチチとジョ
ージを見て、凄い焼餅を焼いていたんだ。
恨めしそうなあの悪い目つきでチチの事をにらんでいた。
でも、パンダはジョージと居る時だけはシナシナとして、気を引こうを必死だ
ったんだよ。マミーは「よくいるのよねー、人間の女でも。性格が悪いくせに
男の前に出ると別人になるのがー」と独り言を言っていた。

で、ある晩の事。いつもの様に、噴水の所でチチとジョージがデートしている
と、パンダー!!とメイドさんの叫び声がしたんだ。
僕らがエっと振り返った時には、もうパンダがチチを襲っていた。
パンダは35K以上の大きな体でチチに体当たりをして、あっという間にブッ
シュの中に押し倒した。そのまま、猛烈な勢いで、噛み付いたんだ。チチが殺
されちゃうよー。マミーが「何するのよー。早くパンダを捕まえなさい!」と
メイドさんに叫んだが、メイドさんはオロオロして、何も出来ない。
マミーは怒り狂って、ブッシュの中に入って、パンダの首根っこを掴むと、振
り回して、チチから離したんだ。
僕もキングも凄い女の戦いにぼーぜんとしてしまい、その場に凍りついてしま
ったんだ。

チチはブッシュの中でぐったりとして倒れていた。
マミーはチチを抱き起こすと、チチの左眼から、真っ赤な血がどくどくと流れ
ていた。
パンダのメイドさんは
「すみません、すみません。パンダの力が凄くて、引き綱を離してしまいまし
た。ご免なさい、ご免なさい。」と謝ったがマミーはそんな事は聞いていなか
った。
「ダデイ、大変よ。チチがパンダに襲われたー!」 と叫んでいた。
すっかり、シャワーを浴びてリラックスしていたダデイもビックリして飛び出
して来たんだ。
グッタリとしたチチはダデイに抱かれて、部屋に戻り、マミーはチチは片目を
やられたと凄く心配したんだ。すぐに、コットンと水で目の回りの血をふき取
り、傷の具合を調べると、左眼のふちがパックリと開いていた。
「ダデイ、目玉は大丈夫みたいよ。良かった!これなら、獣医さんの所に行か
なくても大丈夫じゃない?」
マミーはご近所だし、もめたくないなあと思っていたので、大事にならなくて
良かったとホッとしていた。
「まー、ジョージを巡る女の戦いだったね。あんな闇討ちじゃなければ、絶対
バカなパンダなんか、チチがやっつけられたのに。所で、どうしてタマちゃん
はチチを助けなかったのよ。こういう時に、お兄ちゃんのタマちゃんが加勢す
るもんでしょう」
と僕に矛先が向いてきた。
その時、僕はしみじみとこれを宿命と言わずして何と言おう。と感じていたん
だ。
あのうすのろキングと僕はベンジーを賭けて戦い、そして、今度はパンダとチ
チがジョージを賭けて戦い、宿命の戦いだったんだ。その時に僕は決心した。
ボクサーは大嫌い、僕より大きい奴は大嫌いだ。
今度、チチが襲われたら、絶対に助けるぞ、って。

ジョージもパンダのチチ襲撃事件の後から、パンダを避けるようになっていた。
凶暴な女犬は大嫌いらしい。僕も同感だった。チチは相変わらず、ジョージに
惚れていて、目のふちに大きな傷を作って愛嬌を振りまいていた。
ジョージは1歳になった。リンデルさんはジョージにたまたま摘出手術をする
事にしたんだよ。
マミーは僕の手術がいかにひどくて、ダデイと泣いた話をリンデルさんにした
けれど、町で一軒しかない獣医さんは若いかっこいい先生に変っていたんだ。
だから、ジョージの手術は最新式のテクニックで何の問題もなく済んだんだ。
リンデルさんはジョージがプレイボーイなので、あちこち、近所の女の犬に手
を出したら大変だと本気で心配していたんだ。これで、たまたまなーい君2号
の誕生だ。

マミーは香港島の友達から、電話を貰った。
「ねえ、こっちで噂になっているんだけど、デスカバリーベイに凄くHな名前
を犬に付けている日本人がいるって。それって、あなたの事じゃないの?」
「あー、私の事だわ。でも、タマタマって可愛いでしょう?」 
「えー、普通、犬にそういう名前って、付けないんじゃない?あなたってやっ
ぱり、変っているわ」と言われたらしい。
マミーは、別にいいじゃないの。可愛い名前なんだから、余計なお世話だい!
と独り言をブツブツ言っていたのだけれど、それから、1週間後にまた、電話
があったんだ。
それは、オーストラリアからで、ダデイの昔の上司のハリーさんからだった。
この人は一度目の奥さんが日本人だったから、少し日本語を話すんだ。
「どーもー、毎度ー。お宅のタマタマ、チンチンは元気ですかー」
「えー、ハリー、チンチンじゃないのよ、チチ。全然意味が違うのよー」
とマミーはわめいた。
その時に、マミーは1週間前の友達からの電話の事の意味が判ったんだ。
僕とチチの名前をタマタマとチンチンと香港島では噂になっていたんだ。
だから、Hな名前だと言われたんだ。
「そうだなー、ワンセットだものね、」とマミーはすっかり納得してしまった。
マミーの事だから、もしチチが男の子だったら絶対にチンチンってつけたに違
いない。
そういう人なんだ、僕のマミーは。
                                         
つづく(次号掲載は1月18日を予定しています)