タマタマ物語

何でも かんでる 僕
その2.

こうして、僕の新しい生活が始まったんだよ。新しいお母さんとお父さんと新
しい家。僕は初めは淋しかったけど、マミーもダディも僕の事をすごく可愛が
ってくれて、一人っ子も悪くないなーと思い始めていたんだ。毎日、朝7時、
お昼、午後4時、夜9時と4回、マミーは僕をお散歩に連れて行ってくれた。
ダディは出張がお仕事みたいに、いつも家に居なかったから、マミーは僕と2
人で一日中過ごしたんだ。いつも、マミーは日本語で話し掛けてくるから、僕
は日本語も判るようになったし、ダディは英語で話し掛けてくるので、英語も
判るようになったんだ。それに、外に出るとイギリスから来た犬はイギリス犬
語で話し掛けてくるし、香港生まれの犬達は中国犬語で話し掛けてくる。色ん
な国から犬達が来ているから、色んな犬語を話さなくちゃいけないから、大変
なんだよ。

マミーはいつもチャオさんに感謝していた事があったんだ。それは、僕がちゃ
んとトイレのトレーニングが出来ていた事なんだ。トイレに新聞紙をひいて、
そこでちゃんと、ウンチもシーシーも出来たんだよ。だから、間違って、床に
しちゃったりする事はなかったから、マミーは凄く助かったと言っていた。

でも、僕は一人でお留守番するのが大嫌いなんだ。時々、ダディとマミーは夜
食事に出かける事があったんだけど、僕も一緒に行きたいのに、いつも、一人
でお留守番しなければならなかった。

そういう時は頭に来て、色々いたずらをするんだ。初めはテッシュボックスか
ら、全部、テッシュを引っ張りだした。その次は本当は、マミーたちのベッド
ルームには入っちゃいけない事になっていたけど、ドアーを押したら開いたん
だ。どうなっているのか探検に行って、バスルームに入っていったら、急にウ
ンチがしたくなった。そうだ、いつもダディはここでウンチしているぞ。臭い
がするぞ。と思い出して、バスタブの中に飛び込んで、ど真ん中にでっかいの
をモリモリとしちゃった。すごく気持ち良かったけど、これをマミーが見たら、
怒るぞーと気がついた。だけど、もうしっちゃった後で、どうしようもない。
あー、怒られるよーと凄く、怖かったんだ。それから、ダディの靴を噛む事に
した。丁度、目の前に2足あったんだよ。1足は古い靴。臭いをかいだら、ク
サイ。もう一足は新しい靴。臭いはクサくないぞ。僕は迷わず、新しい方にし
た。だって、クサイ靴は噛みたくないもの。新しい靴はバリーの靴で皮がいい
から噛み心地がいいんだ。で、ボロボロになるまで噛みつづけた。そうしたら、
ダディとマミーが食事から、帰って来たんだ。僕はうれしくてドアーまでお迎
えに出たんだけど、あーウンチした事とダデイの靴を噛んじゃったこと、どー
しよう、怒られるぞと思ったら、まゆが下がって困った顔になるし、頭も下が
って、しっぽもおなかの方に丸まって悪い事しましたとすぐマミーたちに判っ
てしまう態度になってしまったんだ。マミーは僕を見て、「タマちゃん、何か
悪い事したね、何したの」とドアーをあけた途端に大きな声で怒鳴るんだ。あ
ーやっぱり、怒られるよ。マミーは家中を見て回って「変ね、何にもしてない
な」と言って、今度は、少し開いたベッドルームのドアを見つけたんだ。僕は
その部屋には入っちゃいけないことになっていたから、まさかと思っていたら
しんだ。で、突然大笑いが聞こえて来た。「ダデイ、ちょっとここに来て、ワハ
ハ。タマちゃんはただものじゃないよ。バスタブの真中にウンチしてあるよ。
ワハハハ」と大笑いしているんだ。僕はてっきり、お仕置きされるかとビクビ
クしていたから、ビックリだ。「ちゃんと、見ているんだね。どこにでもウン
チ出来るのに、バスタブの中とは偉い偉い。あー、靴も噛んである。えー、新
しいバリーの靴!偉いねー、一丁前にいいものは判っているんだね」と悪さし
たのに、誉められた。「置いていかれたから、抗議したんだね。でも、ちゃん
と考えていたずらしているから、偉い,偉い」って、ずっとマミーに誉められた。
でも、僕は怒られるぞと自分ですごく怖かったから、もう、二度としないと決
めたんだ。それからは、僕はいい子でお留守番できるようになったんだよ。

相変わらず、ダディはお仕事で家に居なかった。時々、帰って来ると、凄く可
愛がってくれたけど、マミーは友達に「うちは母子家庭」と言っていた。どう
も、母子家庭というのは、お父さんが居なくて、お母さんと子供だけの家の事
らしかった。だから、24時間、僕はマミーを一人占め出来たんだ。毎日、毎
日、僕に話し掛けて来るから、段々マミーが何を言っているのかも判るように
なって来たし、気持ちも読めるようになってきたんだよ。ショッピングに行こ
うと思っているなーとか散歩に連れて行ってくれるんだなー。とマミーが何も
言わなくても、ちゃんと僕には判っていた。

毎日の散歩はマミーの生活を激変させたらしい。いつも、デスクに座って仕事
していて、外に出たり、運動をしたりする事がなかったのに、僕を1日4回、
散歩に連れて行かなくちゃいけないから、朝も早起きになったし(6時になる
と僕は目が覚めるから、マミーを起こしに行く)町中を探検するようになった
んだ。一人で散歩するのは詰まらなかったから、僕と散歩すると沢山楽しい事
が出てきたんだ。
近所のイギリス人やアメリカ人の子供達に僕は大人気になった。散歩に出ると、
ワーッて子供達が集まって来る。皆、僕を可愛い,可愛いって一緒に遊びたがる
んだ。だから、近所の子供達は皆僕の名前を知っていたんだよ。「ねー、おば
さん、この子犬の名前は何ていうの?」って聞いて来るから、マミーは毎日
「この子犬の名前はタマタマ君っていうのよ」と答えていて、子供達は僕の名
前を知っていた。だから、外に出かけると、いつも誰かに大きな声で「タマタ
マー、タマタマー」って呼ばれていたんだ。でも、子供達は日本語を知らない
ので、僕の名前の意味は知らなかった。マミーはこの子供達の初めて知った日
本語がタマタマじゃまずいかなと考えていたみたいだけど。

僕は生後5ヶ月になっていた。ダデイは1年に一度、チャリテイで九龍の山、
100KMを歩くイベントに参加していたんだ。早い人は17時間位、遅い人
は48時間かけて、山を走ったり、歩いたりして、ゴールするんだ。でも、途
中で休んだり、水を飲んだり、食事をしたりしなくちゃならないから、サポー
トチームがついて行って、その年はマミーがサポートチームに参加する事にな
ったんだ。でも、マミーは僕の事を心配して、行きたくないと言ったけど、ダ
デイは「大丈夫、大丈夫、一緒に車に乗っていくだけだから」と僕も一緒に山
に行く事を決めたんだ。天気も良かったし、初めて、タクシーに乗ったり、車
に乗ったりの冒険だったよ。でも、問題があったんだ。山でシーシーが出来な
かったんだ。草の上や森の中で「シーシーしなさい、ウンチしなさい」と言わ
れても、僕のトイレはおうちのバルコニーの新聞紙の上と決めていたから、出
ないんだ。マミーは水をくれたり、お菓子をくれるけど、食べたり、飲んだり
すると、トイレに行きたくなるから、我慢した。皆が心配して「どうして、で
きないの?」と聞いて来るんだけど、我慢して体が震えても出来ない。僕のト
イレはお家のバルコニーの新聞紙の上!と決めていたんだもの。その時、マミ
ーは僕は凄く頑固者だとわかったらしい。途中で他の人と交替する事になって、
やっとお家に帰って、僕はすぐにバルコニーに走って行って、シーシーとウン
チをした。ハーっとため息がでちゃったよ。僕は17時間も我慢したらしい。
マミーはあきれていた。

僕は生後10ヶ月になった。散歩の時に会うベンジーというジャーマンシェパ
ードのミックスの友達が出来た。でも、僕は変な気分なんだ。どうも、ベンジ
ーに恋してしまったらしい。初恋かなあ。ベンジーの匂いがすると、追いかけ
たくなるし、ごはんも食べれない。マミーは恋わずらいだと言った。ベンジー
は近所の犬達のアイドルで皆がベンジーの事を大好きなんだ。だから、僕とベ
ンジーが仲良くしていると、他の奴が来て、邪魔するんだよ。近くにマスチフ
という凄く大きな奴がいて、やっぱりベンジーが好きだったんだ。マスチフは
元々はロシアから来て、ロシア犬語の中国アクセントで僕に喧嘩を売って来る
んだ。体重は70Kくらいあって、濃い茶色。顔なんか皮がのびっちゃって、
変な顔。僕の顔の3倍くらい大きい。体重だって僕の3倍くらいあった。そい
つが僕とベンジーが仲良しなのに焼餅を焼いて、襲ってきたんだよ。あれが初
めての喧嘩だった。マスチフは体は大きいけれど、重くて、その上運動不足で
動きが遅いんだ。だから、若い僕はベンジーとの愛をかけて、戦ったんだよ。
負けるかと思ったけど、マスチフは大きいくせに弱虫で、僕が噛み付いたら、
キャンキャンと泣いて、逃げていった。「覚えてろよ!」と怒鳴っていたけど 、
僕は喧嘩に勝ってうれしかった。
その夜、マミーが僕に言った。「タマちゃん、あのね、貴方は男の子なのよ。
ベンジーもね、男の子なの。あのマスチフも男の子なの。だから、変でしょ。
今日から、マミーは貴方の事をホモドッグって呼んじゃうよ」と僕の新しいニ
ックネームはホモドッグになった。

それからも、僕はベンジーが好きで好きで仕方がなくて、会えない日には食べ
物もノドに通らない。マミーは心配して、ドライフードに肉を混ぜたり、チキ
ンを混ぜたりして、何とか食べさせようと努力してくれた。けれど、どんどん、
やせっちゃったんだ。ベンジーもやせてきた。散歩の時にベンジーのメイドさ
んにマミーが「どうして、ベンジーはそんなに痩せているの?」と聞くと、メ
イドさんは「ご主人の会社が潰れて、ベンジーの食べ物を買えなくなったので、
ベンジーの食事は凄く少ないんです」と話していた。僕は、ベンジーが可哀想
になって、本当はマミーにベンジーを家に呼んで欲しかったんだ。家には沢山
食べ物があるし、僕はベンジーを思うと胸が苦しくなって、食べられないだけ
だから、僕の食事をベンジーに上げたかった。僕のベンジー。 でも、それか
ら、1週間くらいして、ベンジーは居なくなっちゃったんだ。どうしたんだろ
う。毎日、散歩の時にベンジーを探したけど、それきっり、居なくなった。マ
ミーも心配して、町でメイドさんを見つけたので、
「このところ、ベンジーを見かけないけれど、どうしたの?」と聞くと「ベン
ジーは養子に出されました。ご主人はイギリスに帰る事になり、ベンジーは香
港に置いていかれます。ご主人の友達がベンジー
を引き取る事になり、他の町に行きました」と話してくれた。僕は、何だか判
らないけれど、どうもベンジーとはもう会えなくなったんだという事を感じて、
悲しくなってしまったよ。あれが、僕の初恋の終わりだったんだ。
                                    
つづく(次号掲載は10月19日を予定しています
)