フロリダのコテージ
ビーチで物思いにふける僕

その26.

それから、毎日マミーと僕たちはもう何年もこのビーチに住んでいるみたいに
胸を張ってお散歩したよ。マミーは相手の事は知らなかったけれど、皆が声を
掛けてくれから、とっても楽しいビーチ生活だったんだ。

ダディはお仕事のジェットスキーのテストも終わったので、オーランドのディ
ズニ−ワールドに行こうと言った。
フォートワートンビーチからオーランドまでは2時間くらいのドライブだった。
また、ペットOKのモーテルにチェックインしたけれど、ビーチのハネムーン
スイートとは天国と地獄の差だったよ。
部屋もちょっと臭いし、キッチン付きで長期滞在する人用のモーテルだったん
だ。
ほとんどの人達がペットを連れて来ているから、部屋に着くまで、あちこちの
部屋からワンワン、ガウガウと声が聞こえて来たよ。
マミーはダディとデイズニ−ワールドで遊んでいる間にこんな部屋に僕たちを
閉じ込めているのは絶対に嫌だと思ったんだ。
僕たちも、1日中、こんな臭い部屋にチチと閉じ込められるのはごめんだった。
でも、駐車場で車の中にいたら、暑さでローストドッグになっちゃうし、それ
に、窓を開けていたら、泥棒に襲われるかもしれない、僕たちが誘拐されるか
も知れないと色々心配事が出て来たんだよ。
すると、ダディが、デイズニ−ワールドのパンフレットを見て、
「マミー、ここにケンネルって書いてあるよ。全部の施設の入り口の横にケン
ネルがあって、ペットを預かりますって書いてあるぞ」
やっぱり、アメリカは凄いなあとマミーは思った。
デイズニ−ワールドに遊びに来る人達もうちと同じにペット連れての家族旅行
をする人達が沢山いるから、ちゃんとベビーシッターみたいに、僕たちを預か
ったくれるんだって。これで、心配事は解消した。

次の朝、僕たちはデイズニ−ワールドのケンネルに連れて行かれたよ。
次々と色んな犬達がやって来た。皆お父さんやお母さん達が遊んでいる間にこ
こで待っているんだ。僕たちの狂犬病や他の病気の予防接種証明書と掛かり付
けの獣医さんの名前や連絡先は必要だ。
「ここは、初めてですか?」とレセプションのお姉さんが聞いた。
「初めてです」
「ケージスプレーは受けていますか?」
「は?何ですか、それは?」
「もし、受けていなければ、外のオリになりますけど、いいですか?」
「はい、結構です。お天気も良いし、外の方が良いと思います」
ケージスプレイというのは、色々な犬達が建物の中のボックスみたいなオリに
入るので、オリの中で病気が移ることがあるんだって。
だから、それを避けるために、予防接種をしなければならなかったんだ。
でも、僕たちは、今まで一度もオリに入った事がないんだ。ケンネルに預けら
れた事も無かったから、マミーもダディも知らなかった。

1日6ドルを払うとで何回でも外に出れるんだよ。
マミーたちは嬉しそうに、遊びに出かけたけれど、3時間くらいたつと、心配
で、帰って来る。ケンネルの裏は散歩道になってシーシーをしたり、ウンチを
したり出来るようになっていた。散歩をした後、また、マミーたちは中に戻っ
て遊びに行ったんだ。
結局、夜の8時くらいまで、遊びまくったらしい。
ちなみに、ダディは53歳でマミーは43歳。子供みたいな人たちだ。
3日間、充分ディズニ−ワールドを満喫したようだった。
僕たちを預かってくれた、ケンネルのお蔭だったんだ。

そうして、僕たちの初めてのフロリダ家族旅行は終わった。
マミーは、これからも僕たちを連れて旅行出来るのがとても嬉しかったみたい
だよ。
また、2日間かけて、シカゴに帰ると、マイナス15度の雪におおわれた真冬
に戻った。不思議だなあ。フロリダは夏のようだったのに、シカゴは真冬だ。
それから、1ヶ月位は寒い、寒い毎日だった。
でも、湖の周りはどんどんと変化していったんだよ。
雪の下から緑の草の芽がピョコピョコ出てきたり、丸坊主だった木が芽吹いて
来て、白とブラウンだった景色に毎日、緑色が加わって行くんだ。
冬眠していたリスたちもどんどん出てくる。
こいつらを僕は捕まえたかったんだけれど、あっという間に木に登ってしまう
んだ。
始めは、僕もチチも木に登ろうとしたけれど、登れない事に気がついた。
悔しくて、悔しくて、木の下から見上げると、リスは
「へへー、ザマミロ、木には登れないくせに」とキキキーとバカにするんだ。
もう、頭に来て、下からワンワンと咆えてやったけれど、上から見下げて、バ
ーカと僕たちに向かって言った。
チチは悔しくて、木の下の方の皮をバリバリとむいてはペッと吐き出し、何と
か木を倒そうとした。でも、無理だよね。木は倒れないよ。
あー、木を登れたらなあ。リスを皆捕まえちゃうのになあ。

4月になると今度は鳥たちの赤ちゃんが生まれるんだよ。
カルガモは赤ちゃんたちがお母さんの後ににくっついてチョコチョコ歩いてい
るし、白鳥という大きな真っ白な鳥には5羽も赤ちゃんが生まれたし、サギと
いう鳥をマミーは生まれて初めて動物園以外で見たと大感激だった。
もちろん、空飛ぶネズミのガチョウも湖に一杯だ。あー、追いかけたいよ。
毎日のお散歩は追いかけたい誘惑で一杯だ。木にも登れたらなあ、空を飛べた
らなあ。泳げたらなあ。僕もチチも実はカナヅチなんだ。水が怖くて、水に入
ったら、絶対に足が底について、胸が水に漬かったら、もう限度なんだ。
マミーは犬は本能で絶対に泳げると確信していたけれど、僕たちはスイミング
は大嫌いで、興味が全くないんだ。
だから、木に登ったり、空を飛べるほうが僕はいいなあ。

季節が良くなって来ると、朝は沢山の人達がお散歩したり、ジョギングしたり
する。
そうすると、毎日同じ人達に会うんだ。ハーィとかグッド モーニングとか皆
声を掛け合うんだよ。そうすると、沢山の人達が僕とチチを見て、「何の種類
の犬??」と聞いて来るんだ.アメリカでは絶対に見かけない犬なんだって。
それはそうだよ。僕たちは香港から来たんだから。
マミーは、聞かれる度に僕たちが香港から来た雑種の犬達で、今は移民してア
メリカ犬になった話と僕の名前がタマタマでボールが二つという意味でチチは
おっぱいという意味だという話をするので、すぐに僕たちはここでも、有名に
なって行ったんだよ。
                                          
つづく(次号掲載は4月5日を予定しています)