その41.

今日はね、スポットとボビーの話をするよ。
スポットはテリアと何かのミックスだけど、体に斑点がるのでスポットという
名前がついたんだ。体は小さいけれど、とっても頭が良い。
ボビーはゴールデンリトリバー。
2匹は大きさも種類も丸っきり違うけれど、大の仲良しだった。
その上、スポットの家とボビーの家はお隣同士だ。
毎日、毎日、遊ぶのも一緒、昼寝も一緒。何をするのも一緒だったんだ。
スポットの飼い主さんもボビーの飼い主さんもスポットとボビーは兄弟みたい
だ、不思議なくらい仲が良い事は充分判っていたから、2つの家を行き来させ
てくれていた。

所が、ある日、ボビーの姿が消えてしまった。
大騒ぎになって、飼い主のジョージさんはボビーを探した。
近所の人達もみんなボビー探しを手伝ってくれたんだ。
警察にも届け、近所は皆、探したけれど、一向に足取りがつかめない。
誘拐されたのか、どこか遠くに行ってしまったのか、全く、ボビーの行方が判
らないんだ。

ただ、毎日、毎日スポットがジョージさんの家の前でワンワン咆えるので、ま
ったく、小さいスポットはウルサイと相手にしなかったんだ。

1日、2日、3日経ち、遂に1週間経った。
まだ、ボビーは見つからない。
その日も、スポットがやってきて、ジョージさんを見ると、ワンワン咆えたん
だ。
この日は、「ちょっと、無視しないでよ。私に注目して。ジョージさん、ジョ
ージさん」と
しつこく、しつこく咆えつづけたんだ。
ジョージさんもボビーとスポットは大の仲良しだったし、ボビーが行方不明に
なるまでスポットがこんなにうるさく咆えつづける事は無かった事を考えて、
何かあるかも知れないと思い始めたんだ。

「何だい、スポット。ボビーはまだ帰って来ていないよ。何の用なんだ?」
と言って、ドアを開けて、外に出てきたんだ。
スポットは、すぐにジョージさんのズボンの裾を咥えてグイグイと引っ張った。
「何だ?僕に一緒に来て貰いたいのか?」
スポットはこっちこっちとジョージさんのズボンのすそを咥えたまま、道路を
横断したんだ。「OK,OK.判ったから、離してくれよ。君の後をついて行
けばいいんだな」
すると、スポットはジョージさんのズボンを離して、こっち、こっちと後ろを
振り向き、振り向きジョージさんを誘導したんだ。
どんどんと歩きつづけ、1.5K位離れた森まで来た。スポットはそれでも、
歩きつづけ、森の中に入って行ったんだ。
ジョージさんはスポットが森の奥に向かう後を追いながら、ちょっと心配にも
なって来た。一体、スポットは何をしたいんだ?

すると、小川の流れているちょっと深い堀のような所まで来た。
その、堀の中を覗くと、ボビーがいたんだよ。
ボビーは誰かが仕掛けた動物用のスチール製の罠にに右足を挟まれて、動けな
くなっていたんだ。
スポットは目を輝やかせて、「ね、ボビーがいたでしょう。早く、助けてあげ
て」とジョージさんに言ったんだ。まあ、ガウ、ガウってね。

ボビーは1週間もその罠にはまってしまっていたのに、ちゃんと生きていたん
だ。
それは、毎日、毎日スポットが食べ物を運んで来ていたからなんだ。
おやつやクッキーや自分の貰うドッグフードを口の中に一杯詰め込んで、家か
ら1.5K以上離れたこの森に運んで来ていたんだ。
そして、ジョージさんに知らせようと、家の前でワンワンと咆えたけれど、皆
、ボビーの捜索でスポットに気がつかない、ウルサイ犬だって思っていたんだ。

ジョージさんはもっと、早く、スポットの出すサインを理解していたら、ボビ
ーは1週間も森の中で罠に掛かって苦しまなくても良かったのに、ととっても
反省したんだ。
それに、スポットがボビーを生かすために食べ物を運んでくれていた事にもビ
ックリしていた。僕たち犬族がそんなに知恵が廻るって思っていなかったから
ね。

ジョージさんはスポットはボビーの命の恩人(恩犬?)だって感謝したんだ。
その後、ボビーの罠を取り除いて、獣医さんの所に大急ぎで連れて行ったけれ
ど、
罠は鹿を捕まえる凄く強力なもので、ボビーの足に食い込み、1週間も血液が
止まってしまったために、ボビーの足は切断しなければ、ならなかった。

でも、ジョージさんはボビーが生きていてくれれば、足は切断しても仕方がな
いと決断したんだよ。
その後、ボビーはめきめきと元気になり、スポットとも、前以上に仲良しにな
ったんだ。
ジョージさんは違法な鹿用の罠を取り締まるように警察にも近所の人達にも訴
えて、それからは、そんな危険な罠は仕掛けられなくなったんだそうだ。

でも、ボビーもスポットももう二度とあの森には探検には行かないと決めたん
だ。
良かったね。
                                       
つづく(次号掲載は7月26日を予定しています)