その47.

「そして、最後は僕自身の話です。僕とワイフは結婚して8ヶ月目で離婚の危機
だったんですよ。僕はまだ若くて新米の医者で、病院ではかなり、頑張っていた
んですが、ワイフはそんな僕との生活が不満だったみたいです。ワイフの両親は
丁度結婚30周年を迎える、仲の良い夫婦で彼女にとっては、両親が理想の形だ
った。
だから、僕との生活を何とか、両親の生活、夫婦の形に近づけようとしたんです
が、それは無理です。貴方は父と言う事もする事も違う、この結婚は間違いだっ
た,と毎日ワイフは僕に言うのですよ。
自分の父親が理想の男だったから、僕のする事、いう事なんでも気に食わなかっ
たんです。
そうなると、自分は悲劇の主人公です。ワイフは段々と落ち込んでウツの状態に
なってしまったんです。
そんなある日、彼女に親友から電話があって、近くで怪我をした子犬が見つかっ
たので、とにかく、来いというのです。ワイフは飛んで行きました。
そこには、箱に入った2匹の子犬で両方ともかなりヒドイ傷を負っていました。
泥だらけで、目を満足に開けられず、ピーピーと力のない声で鳴いているんです。
親友は貴女が一匹、私が一匹助けようと提案して、ワイフは茶色い子犬を取りま
した。
すぐに獣医さんの所に連れて行くと、右前足が骨折し、生まれてすぐに捨てられ、
雨の中、箱の中で食べ物も無く震えていたようです。
それから、ワイフはその子犬に掛かりきりです。
毎日看病をしていると、彼女のウツもスッカリよくなり、僕が家に帰ると子犬の
その日の状態の報告です。僕にもワイフがイキイキとしてくるのが感じられる。
子犬はコッカスパニュエルとウエルシュ テリアの多分ミックスですが世にも珍
しい可愛い犬でした。
僕たちは子犬の名前をエルと付けました。
それから、僕とワイフの間にはエルが入り、休みの日には公園に散歩に出かけ、
何をするのもエルが一緒です。
僕らはファミリーになりました。エルが来てから、ワイフは全く生活の文句を言
わなくなったんですよ。
彼女はエルから無条件の愛情を与えられて、夫婦の形も様々、幸せの形も様々な
事を教えられたんです。
モチロン、僕もエルには一目惚れでした。去年、エルが亡くなり、このジュディ
が二代目ですが僕たちは15回目の結婚記念日を迎えました。
僕らにとってもエルの力でワイフの心の病も治り、夫婦の危機も救ってもらった
という事です。
一体、犬は何なのでしょう?やっぱり、天使ですね」

マミーはロバートさんの話を聞きながら、感動していた。
足元でねっころがっていた僕にも伝わって来る。
マミーがヒステリーを起さないのも、もしかすると、僕の御蔭かもなあとも、実
は思ったんだ。
                                       
つづく(次号掲載は9月6日を予定しています)