その49.

テレビのニュースで香港が中国に返還されてから、5周年と言っていた。
僕たちがアメリカに移犬してから、もう4年になるんだ。早いなあ。
マミーもすっかりアメリカの生活に馴染んで、郊外型お家大好き主婦になって
いた。
朝は7時からグッド モーニング アメリカを見てコーヒーを飲むのが日課だ。
僕たちは朝ごはんを貰ってから、側でずっと、マミーを見ているのが日課だ。
でも、アメリカでは犬の事件も沢山起きるんだよ。
去年起きたのは、サンフランシスコっていう都市での事件だ。
アパートの中でブル マスチフっていう体重70K以上の犬を2匹飼っていた
夫婦がいるんだけど、廊下で隣近所の人達に遭うと、その犬がいつも、襲いか
かろうとしていたんだって。
アパートの住人たちは、こんな怪物みたいな犬は怖いから、アパートから出て
行くか、犬をどこかに連れて行くかして欲しいとその夫婦に頼んだけれど、聞
いてくれなかった。
一日中、凄い声で咆えているから、怖いのと、ウルサイのとで住人は困ってい
た。

そんなある日、隣の29歳の女性が外から帰ってくると、その犬達がドアを開
けて、突然、その女性を襲ったんだ。
体中を噛んで、頭まで噛んだ。女性は「助けて、助けて」って叫んだのに、オ
ーナーは止めようとしたけれど、自分も噛まれてしまったので、そのまま、犬
を放って置いたんだ。

女性は廊下で死んじゃった。体中、100箇所以上も噛まれたんだ。
これは、大ニュースで裁判は1年掛かって、犬のオーナーは「隣りの女性が犬
が興奮する香水を付けていたのが悪い」って馬鹿な事を言っていたけれど、結
局、犬が人を襲っているのを止めなかったオーナーは殺人罪になったんだよ。
僕たちは「殺人凶器」になるんだって。

マミーはいつも言っているけれど、ちゃんと散歩に出かけなかったり、運動を
させなったり、ごはんを時間どうりにくれないと、僕たちが欲求不満になって
悪いコになる。
人間の都合で、可愛がりたい時だけチヤホヤしてワガママに育てて、自分の思
い通りにならないと捨ててしまったりする。
僕たちがいい子になるか、悪いコになるかは、皆、飼い主のせいだ。
この世に悪い犬はいないんだって。
ピットブルっていう犬もいるけれど、戦う為に人間に作られた犬なんだ。
一度噛み付くと絶対に離さない。これも、相手が死ぬまで戦う為にそう作られ
たんだ。
だから、凄く一緒に暮らすのは難しい。
僕たちが香港に居た頃に若い夫婦がビットブルを飼っていた。
所が、夫婦には赤ちゃんが生まれたんだけど、小さいアパートでピットブルと
赤ちゃんと夫婦が暮らす事になったんだ。
ピットブルは赤ちゃんにヤキモチを焼いていたのに、夫婦は赤ちゃんをピット
ブルとおいて、出かけてしまったんだ。
帰ってみたら、赤ちゃんはピットブルに噛み殺されてしまっていた。

直ぐにピットブルは薬殺されたんだ。

マミーはこの夫婦はちっとも犬の事が判っていないのにピットブルを飼って、
その上、生まれたばかりの赤ちゃんを犬と置いて遊びに出かけた大馬鹿だと言
っていた。
僕たちはヤキモチ焼きなんだ。でも、ちゃんと、赤ちゃんが生まれても、家族
が増えた事、マミーやダディが大切に思っているから守りなさいと教えられた
ら、ちゃんと、赤ちゃんを守るんだよ。
でも、きっと、このピットブルは赤ちゃんが生まれるまで、子供のように可愛
がられていたのに、赤ちゃんが生まれた途端に可愛がってもらえなくなり、赤
ちゃんはピットブルのライバルになってしまったんだと僕は思うよ。

人間だって、欲求不満になって暴れる人も居るように、犬も欲求不満になれば、
人を噛んだり、悪い事をするんだ。でも、ちゃんと育ててくれれば、そんな馬
鹿な事は絶対にないんだよ。
悪い事、してはいけない事は小さい内に教えてくれれば、ちゃんと僕たちは、
いい事、悪い事の区別は付けられる。でも、教えて貰えなければ、判らないん
だ。

僕たちは小さい頃から凄いスパルタ教育で悪い事、してはいけない事はマミー
に教わった。だから、ワンワン咆えないし、マミーが嫌がることはしない。
でも、良い事をしたり、ちゃんとマミーの言う事を聞くと、美味しいおやつや、
ご褒美がもらえるよ。いつも、沢山の愛情を貰っているから、欲求不満になっ
た事はないんだ。

つづく(次号掲載は9月20日を予定しています)