その50.

今年の夏は暑い、暑い。冬が暖かくて、春が寒くて、突然夏になったら、猛暑
で雨が降らない。変なんだ。
季節が変だと、人間も変になるみたいだ。
ある日、マミーは畑に水遣りに朝早く、出かけて、僕たちのシッターのハイジ
さんの家の前を通ったんだ。
丁度、ハイジさんが小さい白い犬を連れて、出てきた所だったので、マミーは
車を停めて、ハイジさんとお喋りを始めた。
「ハーィ、ハイジ、お元気?」
「ハーィ、サラ。丁度電話しようと思っていた所だったのよ。良かったわ、話
が出来て。私、ここから引越しするのよ」
「えー、どうして?もう、タマタマ、チチの面倒を頼めないの?」
「直ぐ近くに引っ越すから、貴女のベビーたちの事は面倒みるわ。でも、本当
にここに住んでいるのが嫌になったのよ」
「一体どうしたの?」
「犬嫌い、動物嫌いの近所の年寄り達に苛められているの。芝生が焼けるのは
犬のオシッコのせいだって言うのよ。そのいじわるババーの一人が今度、レイ
クバーリントンショアーのボードメンバーになるらしいんだけど、そのババー
が犬を飼っている人達には、もっと、マネージメント料を払わせようとしてい
るらしいのよ」
「そんな、馬鹿な。ここの半分位の住人は犬を飼っているから、そんな事をし
たら、大騒ぎになるでしょう?」
「とにかく、話したら限が無いほど、犬が大嫌いな人達がいじわるするのよ。
だから、この近くだけれど、娘と家を買って引っ越しするわ」

そう言えば、去年、イルゼさんのお庭の裏の方にある森に出かけて、森の入り
口ですごく意地悪そうな顔をした魔法使いのようなオバーさんにマミーは怒鳴
られたっけ。
「アンタの犬でしょ、ウンコそこいらじゅうにして」
「違いますよ。」
「じゃ、犬がしたウンコを見せなさい」
「うちの犬はウンコしていないから、持っていません!」
その後も、ブツブツそのオバーさんは一人で文句を言っていた。

どうも、オジーさん、オバーさんが意地悪をするみたいだ。
人間が年を取ると、優しくなるか、文句ばっかり言って、グラウチーになるか
らしい。
幸せじゃないんだね。病気をするとギスギスするし、家族がかまってくれなく
てもギスギスする。こういうジジババが犬を飼って幸せになれば良いのに、動
物大嫌いだ。
益々、ギスギスする。マミーは隣のリルさんが引っ越してヤレヤレだと思って
いたけれど、あちこちでゴタゴタしているのが判って来た。

この前から、新しい住人らしいハンサムな人が小さいジャックラッセルテリア
の散歩をしていて僕たちが車で帰ってくると、よく見かける。
何回か、車の中から、マミーが声を掛けていたけれど、ある日、その奥さんら
しい人が家の前でそのジャックラッセルテリアにシーシーさせていて、マミー
はお庭の世話を止めて、話し掛けたんだ。

「こんにちは、時々貴女の旦那さんが犬と散歩しているのを見かけたけれど、
引っ越して来たばかり?」
「いいえ、もう2年住んでるの」
「あら、知らなかったわ。貴女の犬はジャックラッセルテリアでしょ?」
「ええ、そうです。私も貴女が散歩しているのを見かけた事がなかったわ」
「ああ、私たちはこの外の森やフィールドに車で出かけるから」
「私はグレイスです。このコはリリー」
「私はサラで茶色の方がタマタマ、小さい方がチチです」
この奥さんは三十代で背が高くて凄くゴージャスな人だった。
色々、お喋りしていると
「ここは、静かで最高だけど、ご近所がちょっとね」
「何かあったの?」
「引っ越して来てすぐ、家の前でリリーにボールを投げて遊んでいたら、お隣
りの年寄りに犬はひき綱を付けろ!法律で決まっているだろー!って怒鳴られ
たのよ。何だか、養老院に入る寸前でまだ、体が動くから、ここに暮らしてい
るみたいなのよね。外の芝生に水をやろうとスプリンクラーを回しているとす
ぐに止められるし、チューリップを植えたら、花が終わった後が汚いって文句
言われたし、本当に老害よ。何でもいいから、文句言う事を見つけてはイチャ
モンつけてくるのよ。まー、ヒマなのよねえ。やることないから、文句ばっか
り」
それを聞いて、マミーはハイジさんやマミーが遭遇した魔法使い意地悪ババー
の話をした。二人とも、ウンウンとすっかり意気投合して意地悪なお年よりは
困るわねーという意見になった。

その後、マミーは家に帰って
「これは、犬戦争が勃発するかも!意地悪ジジババを退治しなくちゃ!」
と一人事を大声で叫んでいた。

つづく(次号掲載は9月27日を予定しています)

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