その58.

マミーは畑をイルゼさんとシェアーして今年は真面目なお百姓さんと自分で言
っているくらい、無農薬、放置野菜作りに燃えていた。
所が、イルゼさんには次から次から色んな事が起きて、畑どころの騒ぎではな
くなってしまって、結局はマミー、一人でお百姓さんをやる事になった。

イルゼさんはまず、テキサスに3週間、息子の結婚式で出かけ、帰ってくると、
今度はリトワニアにいる旦那さんの息子の結婚式でまたまた3週間居なかった。
その間、マミーは畑の管理とイルゼさんの庭の水遣りの任務も課せられて、僕
とチチを連れて、毎日のように畑だ、お庭だと出かけて行ったんだ。
イルゼさんのお庭はマミーがお花中毒になる原因になった素晴らしいイングリ
ッシュガーデンだ。植物が枯れないように、タップリとお水を上げなくちゃい
けないから、結構、マミーは大変だったんだ。
僕たちは水に濡れるのが嫌だから、勝手にその辺でシーシーしたりマミーのお
仕事が済むまで、待っていた。
でも、毎回、イルゼさんの庭に行くと、1本、また1本とバラの木や牡丹がま
茶色になって枯れて来たんだ。
マミーは、ちゃんと水を上げているのにおかしい。と、とっても心配になって
きた。

イルゼさんが旅行から帰ると
「イルゼさん、2日に一度2−3時間スプリンクラーを回したから、水不足で
はないはずなのに、大きなバラの木や植物が枯れてしまったんだけど、どうし
たのかしら?」
「あー、あれね、原因は判っているの。隣りの男が、薬を撒いて私の花を殺し
たのよ。枯れたままにしてあるのは、今、専門家を呼んで除草剤を撒かれたか
どうか調べてもらう為なのよ」
「えーーー、隣のあの変人が薬撒いてるの?許せない。もう、私、心配してし
まったわ。私の水遣りの仕方が悪かったのかと思って」

隣りのおじさんはイルゼさんの事を苛めているんだ。
去年も夜中に満開だったマグノリアの木を切ったり、お花の頭をちょん切った
り意地悪していた。それに、大きな庭を半分に潰さなければならない原因も隣
のおじさんがマネージメントオフィスに公共の場所に花を植えるなと文句言っ
たからだ。
イルゼさんお庭はマミーの庭のように、プライベートではなくて、オープンの
パブリックの場所にお金も時間もイルゼさんが費やして、近所の人達のために
作った花園なんだ。おじさんの所は、文句を言ったくせに雑草ぼうぼうで何の
手入れもしない。
イルゼさんは隣りの人は心の病気で近所の人達に嫌なことをするのが楽しみな
んだって言っていた。
マミーはお散歩の時に、イルゼさんの近所の人達とも話す事があって、そのお
じさんの話をすると、皆、知っていたんだ。
皆、あの人は頭が変なんだって言っていたけれど、怖いから、関わりあいたく
ないんだ。

その後、今度はテキサスに住むイルゼさんの娘さんの家が100年に一度の大
洪水にあって、流されてしまい、イルゼさんはまたまた、3週間、テキサスに
ヘルプに出掛けて行ったんだよ。

マミーは畑に雑草予防の為にビニールシートをひいたり、ブロッコリーやキャ
ベツ、トマトの苗木を買って来て、一人で植えた。
でも、植えた次の日、何だか嫌な予感がして、もう一度、畑を見に行ったんだ。
すると、昨日植えたばかりの苗木がみんなシャベルで掘り返されていた。
「えー、どうしてー??他の人の畑は荒らされていないのに、どうして
ー??」
と掘り返された苗木を前に泣きたくなってしまった。
もう一度、掘り返された苗木を植え戻し、家に帰ると、畑収穫グループのプレ
ジデントに電話を掛けて、昨日植えた苗木が掘り返されていた事を話し、こう
言う事は良くあるんですか?と質問すると
「こんな事は発足以来、初めてです。でも、中には悪魔みたいな心を持った人
もいますからね。」
とプレジデントは言ったんだ。

この畑収穫グループにはイルゼさんの隣りの意地悪おじさんも参加していて、
3区画も買って毎年、畑をやっていたんだ。
マミーはイルゼさんと共同の区画だったので多分、あのおじさんがイルゼさん
の畑だと思って、また、意地悪したんだよ。

でも、その後、マミーはある事に気が付いた。
1ヶ月、2ヶ月とたって、野菜が育ってきて、収穫に行くと、畑の一番はしの
区画は背の高いひまわりで囲まれて、大花園なんだ。
気持ちが悪くなるほど、場違いな花園だ。
そこが、あの意地悪おじさんの畑だったんだ。
「そうか。あのおじさんはイルゼさんに嫉妬して意地悪しているんだ。こうや
って、こそこそと誰も誉めてくれない自己満足の大花園はその証拠だわ。本当
に、心の病気なんだ」と確信してしまった。
でも、もし、畑に行って、誰もいなくて、このおじさんと遭遇したら怖いなあ、
嫌だなあといつも、僕とチチがボディ ガードで付いて行く事なったよ。
8月になると、チェリートマトが真っ赤になって、2日に一度、収穫に行く。
バケツに一杯取れるから,マミーは近所の人達に配り始めた。
農薬も使わないから、甘くて美味しいんだって。(僕は食べないけどね)
近所の人達は大喜びだ。マミーはこれを「トマト外交」と名づけて、ご近所の
おじさん、おばさんたちと仲良くする事にしたんだ。
絶対に、イルゼさんの所みたいにならない為に。
                                         
つづく(次号掲載は11月22日を予定しています)