その65.

ローレンさんのお話だ。
ローレンさんの家は結構田舎なんだけど、家のすぐ近くに十字路があって、どう
いう訳かその十字路に犬が置き去りにされるんだって。
そこまで、車で来て、ストップサインで止まって、犬を置き去りにする。
近所の人たちもとっても迷惑していたんだ。
ローレンさんは大の犬好きでもう、3匹も助けたんだけど、去年末っ子のジェイ
ミーが生まれてからとっても忙しくしていたんだ。

ある日、キッチンの窓から外を見ると、ベージュの痩せた犬が、ローレンさんの
お庭でウロウロしながら、食べ物を探している。
そのままにしておくと、車にひかれたり、近所の悪い人たちの銃の射的にされて
しまうと心配して、警察に電話したんだ。
10分位してパトカーが横つけされて、シェリフがローレンさんの家に来た。
「どうしたんですか?」
「迷子犬か野良犬か判らないのですが、うちの裏庭にいるんです」
シェリフはそうですか、と言うとパトカーに戻り、ライフルを持ってきて、いき
なり、そのベージュの犬を撃ったんだって。
「何するんですかー、殺してとは言っていないでしょ!」
ローレンさんはシェリフの行動が信じられなかった。保護してシェルターに連れ
て行ってくれると思っていたからだ。
シェリフの撃った弾は犬に当たったけれど、犬はギャィーンと大きな声で叫ぶと
そのまま、茂みの中に隠れてしまったんだ。
「奥さん、ああいう野良犬はどんな病気を持っているか判らないし、襲って来る
かも知れないんですよ。さっさと、殺してしまった方が、いいんです」
シェリフはそう言って、犬を探しに行ってしまった。
ローレンさんは犬が死んでしまっていないように、って神様に祈ったんだ。
だって、ローレンさんが警察に電話しなければ、犬も撃たれなかったから、とっ
ても罪悪感を持ってしまったんだって。
だから、早く、犬がローレンさんの家に戻って来ないか、毎日、毎日待っていた
んだ。

1日、2日と経ち、3日目にベージュの犬がヨロヨロと茂みから姿を現した。
益々痩せてしまって、何も食べていないようだった。
ローレンさんはすぐに、お水とドッグフードをボールに入れて、
「大丈夫よ、スイーテイ、こっちにおいで。食べ物もあるのよ」と声を掛けると、
ヨロヨロとローレンさんのポーチまでやってきて、ガツガツと貰った食べ物をむ
さぼり食べたんだって。
「可哀想に、何も食べていなかったのね。」と言って、犬の頭をなでてあげると、
丁度、頭の後ろに血のかたまりを見つけたんだ。それは、3日前にシェリフに撃
たれた後だった。

ローレンさんは何としてでも、この可哀想な犬の新しい家を探してあげようと決
心した。
ローレンさんが引き取ればいいのだけれど、何しろ1歳のジェイミーがいる。
この犬の世話は無理だったんだ。

あらゆる友人知人、犬好きの人たちに電話を掛けたけれど、誰も、もう一匹の犬
を引き取りたい人はいなかったんだ。
ローレンさんは誰かが引き取ってくれるまで、シェルターには入れずに、家に置
いておく事にした。

犬はとってもジェントルで、末っ子のジェミーともすぐに仲良しになり、庭でロ
ーレンさんがお花を植えたり、庭仕事をする時には一緒に遊んでいたんだ。

ある日、とっても良い天気なので、ローレンさんは新しい花壇を作ろうと庭に出
て来た。
ベージュの犬はローレンさんの周りをウロウロしていたけれど、ジェイミーは一
人で庭の端の方にヨチヨチ歩いて行ったんだ。
その時、ワーってジェイミーの叫び声がした。
ローレンさんがビックリして振り返ると、犬が凄い勢いで、ジェイミーに向かっ
て走って行った。
ローレンさんも「ジェイミー、ジェイミー」と叫びながら、その後を追ったんだ。

すると、そこには大きな毒蛇がジェイミーに向かって鎌首をもたげて攻撃しよう
としていたところだった。犬は、直ぐに毒蛇に飛び掛ったけれど、足を噛まれて
しまったんだ。

ローレンさんはジェイミーを抱き上げて、ようやく事情が判った。
もし、ベージュの犬がいなかったら、毒蛇はジェイミーの顔を噛み付いていたん
だ。
毒蛇は犬を噛むとすぐに、ニョロニョロと茂みの中に姿を消してしまった。
ローレンさんは直ぐに、犬の傷から蛇の毒を吸い出して、獣医さんに電話したん
だ。
すると、獣医さんは毒蛇は種類によって人間には非常に毒が強くて死亡する事も
あるが、犬にはアレルギーの抗体があって、死ぬまではいたらないというアドバ
イスだった。
犬は一晩苦しんだけれど、蛇の毒からサバイバルしたんだ。

ローレンさんはこの犬はジェイミーの命の恩犬だから、この話を新聞社に話した。

飼い主に十字路に置き去りにされて、シェリフにライフルで撃たれて、それでも、
一宿一飯の恩義を忘れずにジェイミーの命を毒蛇から救ったこんなに素晴らしい
犬が困っている話を。

次の日、朝刊にこの話が載ると、大変な反響があって、何百人もの人たちがこの
犬を引き取りたいと一日中、ローレンの所に電話を掛けて来た。
その中に勇気のある犬を助ける会という所からのオファーがあって、犬のシェリ
フに撃たれた弾の摘出や医療を全部面倒見て、ちゃんとしたオーナーを見つける
というものだったんだ。

そして、シェリフが犬をライフルで撃った事も問題になって、それからはその街
では、もし、野良犬や動物が見つかったら、殺してしまうのではなくて、保護し
てシェルターに入れるという事が決まったんだって。
今はベージュの犬はシーザーと名前をつけてもらい、優しい飼い主に貰われて行
って、とっても幸せに暮らしているよ。
                                          
つづく(次号掲載は3月7日を予定しています)