その68.

ある日、マミーの日本のお友達のMさんから電話があった。
「お元気ですか?久しぶりですね」
「実は悲しいニュースがあるのよ、ボスが死んでしまったの」
「えーー、どうしたんですか?」

ボスと言うのは可愛がっていたボクサーの事なんだ。
「ボスは先天的な遺伝子の病気だったらしいのよ。何だか足をひきずるなあ と
思って居る内に、首が曲がってしまい、痛がったりしていないのだけれど、変
なのよ。すぐに、獣医さんの所に連れて行ったら、これは、自分の所では手に
おえないから、大学病院に連れて行きましょう,と言う事になって、即、入院。
それから、色々な検査をしたんだけれど、ボスは先天的な問題が脊髄にあって、
中に空洞が出来てしまっているというの。子犬の時は、体が小さいので、その
空洞も小さいから、問題が出て来なかったのだけれど、大人になるにしたがっ
て、その空洞がだんだんと大きくなって障害が出てきたと言うのよ。足を引き
ずっていたのはマヒが始まっていたんですって。お医者さんにこれは、先天的
な問題で、手術も出来ないし、治療法はありません。と言われたらすぐに、ボ
スは昏睡状態になって、そのまま、2日で息をひきとってしまったのよ。苦し
まなかったのがせめてもの慰めだけれど、主人がとっても可愛がっていたので、
すっかり、元気がなくなってしまったの」
「ボスは幾つだったんですか?」
「3歳と4ヶ月」

3歳と4ヶ月じゃ、若すぎるよね。僕は今年10歳だ。やっぱり、3歳4ヶ月
は若すぎる。

「日本では余り大型犬は人気がないんだけれど、大型犬だったらゴールデンリ
トリバーが一番人気があるの。前のシェルティーが亡くなってから、主人がボ
クサーが欲しいというので捜したら、日本ではブリーダーは1−2箇所しかな
かったのよ。町でもボクサーはほとんど見かけないけれど、1回、ボクサーを
連れている人と散歩の最中に出会ったのだけれど、そのボクサーもうちのボス
と同じブリーダーからの犬だったの。どうも、血が濃いというか、繁殖させる
時に、色々な血が入らないので、どうしても、遺伝子の問題の病気を持つ犬が
生まれやすいそうなの。でも、本当に、ボスは良いコだったから、残念だわ。
それに、朝晩、主人が散歩に連れて行っていたし、本当に可愛がっていたの
よ」

そう言えば、マミーは僕とチチを連れて、ペットショップにお買い物に行った
時にボスの為に迷子タッグを注文して日本に送って上げたこともあったなあ。
でも、一度も、ボスとは会った事がなかったみたいだけれど。

「突然、ボスが家からいなくなるというのは淋しいですね。新しい犬を飼うの
ですか?」
「それがねえ、ボスの時も、どこにも預けられなかったから主人と二人で家を
留守にする事が出来なたの。どうしても、犬が中心のスケジュールになってし
まうでしょう。それに、死なれてしまうと、辛くて」

前にも話したけれど、イエローラブは先天的な問題で目が見えなくなってしま
ったり、ゴールデンリトリバーは腰の骨の病気が多かったりと純血種の犬達は
生まれながらの病気が多いんだって。
僕たちみたいな雑種は訳の判らない色々な種類の犬達のミックスだから一番強
いんだよ。
マミーはチチの訳のわからないグジャグジャ雑種は見かけはブスだけど、先天
的な病気の心配もないし、コンクリートの隙間に生えてくる雑草みたいに強い
なあ、と今更のように、感心した。
でも、これからは、僕とチチをいかに長生きさせるかがマミーの使命になった
んだよ。

つづく(次号掲載は3月28日を予定しています)