その78.

マミーは近頃、マリアッテさんと仲良くするようになって、近所のアニマルア
クテイビストの人とどういう訳か、お友達になる機会が増えた。
この前も、僕たちを連れてお買い物に行った帰り、車を車庫に入れていると、
チョコレート色のかっこいいラブラードールと連れた女の人が家の前を通った。
僕たちを家に入れて、マミーは車の中から、買い物してきたものを出している
と、また、この女の人が戻って来た。
「ハーイ」
と声を掛けて来たので、マミーは
「いい犬ですね。何歳?」
「このコは4歳」
「凄いハンサム君ね」
「自分でもそう思っているみたいよ」
と話を始めたよ。
この女の人の名前はクリステーナさんと言うんだ。

「ねえ、貴女、ここで罠をしかけて、動物を捕まえているの知ってる?」
「ええ、家のリビングの前にしかけていて、夏の間は2日に一度はラクーンに
スカンクに何だか訳のわからない動物が捕まるわ」
「その動物、どうしていると思う?」
「森に返しているんでしょう?」
「違うのよ、全部殺しているの。証拠の写真も沢山あるわ」
「ええー、森に放しているんじゃないの?」
「ネコだって罠にかかるんだけど、顔に酸を吹きかけたり、炎天下に放置して
脱水死させたり、酷いのよ。私は、ここに14年住んでいるけれど、マネージ
メントとの戦いなんだから。だから、こうやって、犬とジョギングしていて、
罠に動物がかかっていると、放して廻っているのよ。全く、自分のネコが行方
不明になったって、大騒ぎして捜している人もいるけれど、罠にかかって殺さ
れてしまっているかも知れないのよ。」
「ええー!」
とマミーは大ショックを受けた。

所で、こうやって色々な人たちから世にも不思議な話を聞かせてもらう事もあ
るんだよ。
このお話は、また、僕の嫌いなネコの話だ。

メリーさんはテキサスに住んでいて、何エーカーもある大きな土地を持ってい
るから、色々な動物が住んでいるんだ。
ある日、納屋の近くを通ると、ミューミューって、声が聞こえたんだ。
納屋の中を覗くと、野良猫が7匹の子猫を産んでいた。
メリーさんはその中から、一匹を選んだんだよ。
この子猫は一番ブスで潰れた顔をしていて、尻尾がはじめから千切れて無かっ
たんだ。
旦那さんはもっと、可愛い子猫にしたら良いのに、とメリーさんに言ったけれ
ど、このブスネコが一番好きだったんだ。
名前をギズモと名づけて、可愛がった。
ギズモはズンズンと大きくなったけれど、どういう訳か、メリーさん以外の人
にはなつかなかったんだ。旦那さんでも、ギズモは近づくだけで、フーっとう
なって、毛を逆立てる。とっても、気性が荒いネコに育ってしまったんだ。

でも、メリーさんだけにはメリーさんを守るガードネコのようにいつも、ピッ
タリと体を擦り付けて、メロメロだったんだよ。
もし、ギズモが機嫌が悪くて、他の人にフーってうなって、毛を逆立てても、
メリーさんが赤ちゃんのように抱き上げて、お腹をよしよしって擦ってあげる
と、何時の間にか、眠ってしまうんだ。
段々とメリーさんとギズモは切っても切れない絆を持って、メリーさんの子供
のようになってしまっていたんだよ。

そんなある夏の日、メリーさんは家で大きなガーデンパーテイを開いたんだ。
親戚や友達や、またその友達や、100人位集まって、夏のパーテイを楽しん
だ。
でも、ギズモは大の人嫌いだったから、何とか人の居ない所、居ない所と選ん
で隠れていた。
そして、最後に選んだのが誰かお客さんが乗ってきたトラックの荷台だった。
すっかり、昼寝をしてしまったんだ。

次の朝、メリーさんはギズモを捜した。
「ギズモー、ギズモー」
メリーさんは狂った様に、家の中も納屋も広大な敷地内も捜した。
懸賞金も付けたし、旦那さんも近所の人たちも総出で、ギズモを捜した。
でも、ギズモは煙のように姿を消してしまったんだ。だって、前の日、トラッ
クに乗ったまま、どこかに連れて行かれてしまったのだから。
メリーさんは二度と、ギズモに会えないのかと、すっかり落ち込んでしまった。
旦那さんは新しいネコを飼うようにと勧めたけれど、メリーさんはギズモ以外
のネコを手元に置くのは、絶対に嫌だと拒否をした。

それから、8年がたった。
ある日、突然ドライヤーが壊れてしまったんだ。
旦那さんが地下室のランドリールームで、何とかドライヤーを直せないかと大
奮闘したけれど、寿命なのか、何か機械の中が駄目になってしまったのか、と
ても、手におえなかった。
仕方がないので、新しいドライヤーを買う事にして、家から25K離れた町の
デパートに行く事にしたんだ。
町に向かって車を走らせていると、道にガレージセールのサインが出ていた。
旦那さんは
「何か掘り出し物があるかも知れないよ、ちっと寄ってみようよ」とメリーさ
んに言ったけれど、メリーさんは時間の無駄だから、と反対したんだ。
「いいじゃないか、何か面白いものが出ているかもしれないよ、ドライヤーだ
って出ているかもしれないよ、ちょっとだけ、ちょっとだけ寄ろうよ」
と旦那さんはメリーさんを説得して、寄り道をする事にした。

ガレージセールをやっている家はすぐに見つかった。
まん前にドライヤーも置いてある。
旦那さんはさっそく、その家の人とドライヤーの交渉を始めていた。
メリーさんはブラブラとセールに出ているものを見て回っていた。
すると、大きなテーブルの下にかごが置いてあって、その中にネコが寝そべっ
ていたんだ。
思わずかがんで、かごの中を覗き込むとそのネコは、まぎれもなくギズモだっ
たんだ。
「ギズモ?」
マリーさんは手をのばして、ネコを抱き上げた。
特徴のある潰れたブスな顔、尻尾も千切れてない。
「あ、あなたーー、ギズモ、ギズモよー、やっと見つけたわー」
マリーさんは興奮して叫んだ。
すると、家の奥さんが
「駄目ですよー、そのネコは人嫌いで噛み付きますよ!」
旦那さんもネコに近づき
「メリー、そのネコの舌に黒いスポットがあるのを確認したか?」
メリーさんはネコの口をこじ開けて、舌を見た。
黒いスポットがあったんだ。やっぱり、ギズモだ!
「このネコは、私のネコなんです」
家の奥さんは
「あなた方はどこに住んでいるんですか?」
「ヒドウン レイクです」
「え、私も以前ヒドウン レイクに住んでいたんですよ」
「このネコは8年前の夏に行方不明になった私のギズモなんです。ずっと、ず
っと捜していたんです。
奥さん、このコを連れて帰って良いですか?御願いします、御願いします」
「まあ、私達は子供をアダプトする事になって、このネコの新しい家を捜して
いたんですよ。もちろんです。連れて帰って結構ですよ」

こうして、ギズモは8年振りにメリーさんの家に帰って来たんだ。
もし、ドライヤーが壊れなかったら、もし、旦那さんが道すがら、ガレージセ
ールのサインを見つけなかったら、もし、ガレージセールに寄らなかったら、
きっと、ギズモとメリーさんがこの世で再会する事はなかったんだよ。
メリーさんはギズモと自分の間には目に見えない、絆でつながっていて、あの
日もギズモが呼んだんだって信じている。お家に帰りたいって。

マリーさんはマグロだチキンだとギズモの欲しがるものは何でも与えて、凄く
スポイルしているんだって。でも、こうして、8年間、離れ離れだったギャッ
プを埋めているんだとも、言っているよ。


つづく(次号掲載は6月13日を予定しています)