その82.

今日は、また、ブタちゃんのお話だよ。
ベッキーさんはアトランタのダウンタウンに住んでいる。
ベッキーさんのお父さんの家でもう、お父さんもお母さんも亡くなってしまっ
て、一人暮らしなんだ。
昔は、とても治安が良い所だったのに、年々、回りの環境が悪くなって、治安
も悪くなって来てしまっていた。

ある日、ベッキーさんの誕生日に友達が子豚をプレゼントしてくれた。
ちっちゃくて、ピンクの可愛い子豚でアーノルドって名前を付けたんだ。
ベッキーさんはアーノルドをベイビーちゃんとして凄く可愛がっていたんだよ。
所が、アーノルドはどんどんと大きくなっていく。
あっという間に150Kだ。
ビックリしたベッキーさんはこれは、何か異常があるに違いないと獣医さんの
所に相談に行った。
そうしたら、獣医さんが
「アーノルドはファームピッグだから、大きくなるのは当たり前です」
と言ったんだ。
アーノルドはペットのブタじゃなくて食用のブタだったので、どんどんと太っ
て大きくなる体質だったんだ。

ある日、ベッキーさんは用事があって出かけていて、アーノルドは、ホームア
ローンでお留守番をしていたんだ。
所が、その日は何と泥棒が、ガレージから入ってきて、物色を始めた。
アーノルドは静かに音をたてずに、泥棒を観察していた。
そのうちに、タイミング悪く、ベッキーさんが帰ってきて、車をガレージに入
れたんだ。
泥棒は、ガレージのドアが閉まって、ベッキーさんが車から降りると、後ろか
ら羽交い絞めにしてピストルを突きつけた。
「金を出せ」
とベッキーさんを脅したんだ。
ベッキーさんは恐ろしくて震えていた。
「お金はここには無いわ、家の中よ」
と言うと、泥棒の一人がベッキーさんを突き飛ばして
「ババー、金出せって言ってんだ、バッグをよこせ」
って怒鳴った。
アーノルドはベッキーさんを突き飛ばした泥棒目掛けて、ドドドーと向かって
行くと、ガブっと足に噛み付いたんだよ。
泥棒はずっとおとなしく静かにしていたアーノルドに気が付かなかったので、
突然、ガブっと大ブタに足を噛み付かれて、ビックリしたのと痛いので、ギャ
ーギャーとわめいたんだ。
アーノルドはマミーのベッキーさんに悪さをしているこの泥棒が許せなかった
のでどんどんとアゴに力をいれて、絶対に離さなかった。
足が千切れそうなほど、噛み付いたんだ。
怖くてガタガタと震えていたベッキーさんは
「アーノルド、もう充分よ、離しなさい」と命令すると、やっとアーノルドは
泥棒の足を離したんだ。
泥棒の足からは血がどくどくと流れて、逃げて行ったんだよ。

でも、それから、ベッキーさんは冷静になって、大変な事になってしまったの
に気がついたんだ。
アーノルドが人を噛んだこと。そして、ペットとしてファームピッグのように
大型の動物は飼ってはいけないという法律があるので、それまでは、隠れて飼
っていたので、もしかすると、アーノルドはアニマルコントロールに連れて行
かれてしまうかも知れないと心配になって来た。
知り合いの弁護士にも連絡をとって、何とかアーノルドを連れて行かれないよ
うにするにはどうしたら良いのかと相談もしたんだ。
でも、泥棒に入られたのだから、警察には連絡しなくちゃならない。
もう、お巡りさんが来た時には、心配で心配で心臓が縮み上がってしまってい
たんだ。
お巡りさんに泥棒にピストルをつけ付けられて、もう少しで殺されていたかも
知れない、その時、ペットのブタのアーノルドが泥棒に噛み付いて、助かった
事を一生懸命説明したんだ。
お巡りさんはこの地域の治安が凄く悪くなって、泥棒や殺人が多発しているの
で、よく、判ってくれて
「ベッキーさん、心配しなくていいよ。僕に任せなさい」
と言ってくれて、アーノルドが人を噛んだ事は問題にしなかった。
その後、新聞にも取り上げられて、今度は、近所の人たちが、アーノルドに会
いに来るようになったんだ。
治安の悪さに困っていた近所の人たちにとって、ベッキーさんを助けたアーノ
ルドはヒーローになって行ったんだって。

つづく(次号掲載は7月11日を予定しています)

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