その93.

それからね、チチは遂に自分でアップグレードを決行したよ。
チチがオシッコを漏らす話は前にしたよね。
あれから、病院でもっと、強い薬をもらって、毎晩寝る前に飲まされているん
だけれど、随分と調子がいいんだ。
以前のように、リラックスしても、オシッコが漏れなくなった。

ベッドルームには大きいダデイとマミー用のキングサイズのベッドがあって、
その横に、チチ専用の小さいベッドがくっついている。
僕はマミーとダデイが取り合いして、こっちに来いだの、あっちに行けだの
と大きいベッドで大体マミーの足の辺でだーーとスペースを取って寝るんだ。
チチはずっと、一匹で、寒い日も暑い日も自分のベッドで寝ていた。
でも、ずっと、僕のように、マミー達と一緒に寝たいと夢見ていたんだよ。
時々、僕はチチの羨ましそうな、恨めしそうな視線を感じていた。

チチのオモラシはチチの所為じゃなくて、手術の失敗から漏れてしまうのに、
小さい時に、マミーに抱かれてお昼寝の最中に漏れてしまって、殴りつけられ
て怒られてから、物凄い恐怖心で、オドオドしてしまっていたんだ。
マミーは「チチは独立心が強いコ」と勝手に決めてしまっていたけれど、本当
はチチだって、甘えたかったし、大きいベッドで皆で寝たかったんだよ。
でも、また、マミーに怒られると思うと、怖くて怖くて、自分のベッドで一匹
で眠る事にしたんだ。

今年でチチは9歳になった。
チチは薬も効いていて、オモラシをしないと自信がついたんだね。
ある日、何の気まぐれか、マミーが
「チチ、おいで」と呼んだ。
チチは待ってましたとばかりに、ベッドに飛び乗ると、マミーの腕枕で気持ち
よさそうに眠った。
はじめの頃は1時間位たつと、何時の間にか、自分のベッドに戻ってしまって
いたけれど、この頃はマミーに声を掛けて貰うのをじっと自分のベッドの中で
待って、声が掛かると、ダデイとマミーの間に入って、ヌクヌクとして一晩中
眠るようになった。
9年目にして、やっとチチの夢は叶ったんだよ。
自分でアップグレードをしたんだ。

そうそう、夏にチチが死にそうになった事があったよ。
あの時も、週末の3時間の大散歩でまず、いつもの森に行ってから、大きいフィ
ールドに行って、好き勝手に2時間ぐらい、ハンテングしたり、コヨーテと
遊んだりしたんだ。
チチは、リスを追い掛け回して、森の大きな木まで追い詰めると、リスは木に
登って逃げてしまった。
チチは怒って、木の皮をべリべりとはがして、木を倒そうとした。
何てことはない、いつもの行動だった。
それが、家に帰ると、凄く具合が悪くなったんだ。
始めはご飯を残すようなって、マミーは「ワガママだ。もっと、美味しいもの
を食べたいの?」と怒った。
それから、水も飲まず、ご飯も食べなくなった。
マミーもダデイも始めはどうして食べないんだろう?位しか考えていなかった
のが、その内に、車にジャンプして乗れなくなって、歩けなくなった。
シーシーをしたいのに、お隣りまで10歩歩くと、動けなくなってしまうんだ。
3日間、飲まず食わずになって、遂にダデイが
「ドクターに見せた方がいい」と言い出して、緊急で、獣医さんの所に担ぎ
こんだんだ。

ドクターもチチが凄く具合が悪いのがすぐに、判って、血液検査をして、とり
あえず、抗生物質を飲ませて様子を見ましょうと言ったんだ。
僕は、診察室に一緒に行ったので、僕もドクターに何かされるのかとヒヤヒヤ
していたけれど、この日は、チチだけだった。
僕が不思議だったのは、チチは一滴も水を飲まなかったのに、シーシーはちゃ
んとしていた事だ。
飲まなくても、出るものは出るんだね。
とにかく、チチはぐったりとして歩くのもヨロヨロでマミーはチチがこのまま、
死んでしまうのではないか
と凄く心配したんだよ。
家に帰って、ダデイにチチの病状報告をして血液検査が戻って来ないと、判ら
ない事ととりあえず、
抗生物質を飲む事を話して、薬を見せた。すると
「あれー、これは、いつも僕が香港で買ってくる抗生物質じゃないか」
アメリカではお医者さんの処方箋がないと買えない薬だけれど、香港だったら、
ファーマーシーで買える薬で、ダデイはアジアに居た頃、風邪や具合が悪くて
お医者さんい行くと、いつも同じ抗生物質しか貰わなかったので、それから、
勝手にファーマシーで買って自分で直していたらしいんだ。
「でも、チチに人間と同じ薬を出すかしら?」
「同じだから、仕方がないじゃないか。」
結局、血液検査と抗生物質代で200ドルだった。

チチは薬を3回飲むと、生き返ったように、元気になり、血液検査の結果も何
も悪いものは出なかったんだよ。
ドクターは多分、森で木の皮をべリべりはがした時に、カビか黴菌がついてい
て、それが、お腹の中で繁殖して具合が悪くなったのだろうと診断したよ。
良かったよ。変な病気じゃなくてさ。もし、チチが居なくなったら、僕はどう
して良いか判らなくなってしまう。マミーは僕とチチを「TWO IN ONE」
って呼ぶんだ。
二匹で一匹という事さ。それほど、僕とチチは固く結ばれているんだよ。

つづく