その94.

アメリカにはアニマルポリスがいるんだ。
動物を苛めたり、虐待すると、このポリスが出動して調査して、苛められている動物を
保護したり、飼い主を逮捕したり出来るんだ。
ひどい時は裁判になったりもする。
これはジェイクのお話だよ。
ある日、アニマルポリスのところに電話は掛かってきた。
「近所の犬は何年も裏のガレージに鎖でつながれたまま、放っておかれています。助け
てやって下さい」という話だ。
ポリスはすぐに出動して、通報のあった住所の家に行くと、本当に、一匹の犬が首にチ
ェーンが巻きついて、つながれていた。
ポリスが近づくとガウガウと吠え掛かってきたのだけれど、ガリガリに痩せて、力が無
い。ポリスがドッグクッキーを犬に与えて、「よしよし、いい子だね」と声を掛けると、
すぐに大人しくなったんだ。
ポリスは、犬の近くまできて、観察すると、なんと、首輪のチェーンが首に食い込んで
、皮を破って、膿でグジャグジャになっている事を発見した。
チェーンを外したくても、肉まで食い込んでいて、とても手が付けられない。
それに、お水のボールも見当たらないし、相当長い間、飲まず食わずだったらしい事も
判ったんだ。
ポリスはこの犬はすぐに獣医さんに見せなければならない、と判断して、その場で保護
して、車に乗せた。

本部に戻って、獣医さんに犬を見せると、獣医さんは
「この子は、子犬のときに付けられたチェーンの首輪をそのまま、何年も付けっぱなし
にされたので、チェーンが小さすぎて首に食い込んでしまっている。本当にひどい事を
する飼い主だ。それに、酷い栄養失調で、このままじゃ、餓死してしまう」
と言って、大きなワイヤーカッターで犬のチェーンを切った。
すぐに証拠写真を撮って、飼い主を動物虐待で逮捕することになったんだよ。

犬の名前はジェイク。飼い主は、子供が犬が欲しいといったので、子犬を貰ったけれど、
子供が興味をなくしたので、そのまま、餓死すれば良いと思っていたんだって。
時々、気が向いたときだけ、餌をやって、ジェイクは雨水を飲んで生きて来たんだって。

ポリスは、飼い主からジェイクを取り上げて、飼い主は裁判に掛けられる事になったん
だよ。
獣医さんに首の傷の手当てをしてもらい、毎日、餌を貰って、ジェイクはやっと、幸せ
になれそうだっった。
所が、ジェイクはとっても、スイートないい子だったけれど、大変な問題が出てきた。
それはね、フードアグレッションっていうテストに落ちてしまった事なんだ。
こういう、虐待されてきた犬たちは傷の手当てをしてもらったり、病気を治してもらっ
た後、どこかに、養子に行かなければならないんだ。
ここは、アニマルポリスと獣医さんとボランテアで運営されているので、助けた動物を
そのまま、引き取って育てる訳には行かないんだって。

それで、養子に行けるか行けないかはテストに合格するか、しないかに掛かっているん
だ。
その一番大事なテストが「フードアグレッション」のテストなんだって。
これは、ご飯を貰って、食べているときに、棒にマネキンの手を付けて、そうっと、フ
ードボールを取り上げて、もし、それでも、大人しくしていたら、合格。
その手に噛み付いて来たら、不合格になるテストなんだよ。
ジェイクは食べ物が出てくるまでは、凄くスイートで優しい奴だったけれど、ひとたび、
食べ物が出てくると、違う犬になってしまうんだ。
だから、テストの時に、獣医さんが遠くから、この棒で、ジェイクの食べているボール
を動かすとすると、ウーーとうなり声を上げて、激しくその棒に噛み付いて、マネキン
の手がズタズタになってしまったんだ。

これで、ジェイクは不合格になってしまった。
でも、可哀想だよ。いつも、お腹をすかしてガレージにくくり付けられて来たんだ。
何年もお腹一杯に美味しいものを食べたことがなかったら、それに餓死しそうだったら、
食べ物が目の前にあったら、それを守ろうとするよね。
僕は、家中にクッキーだのおやつだのが沢山、転がっているから、まあ、何時食べても
いいや、って思っているし、一度も、お腹をすかせた事がないから、別に、マミーが僕
の口の中に手を突っ込んで、食べ物を取っても、全然平気だよ。
でも、。。。でも、、もし、僕がジェイクだったら、いつもお腹が空いて空いて死にそ
うな毎日を何年も送ったら、きっと、僕だってジェイクと同じことをすると思うんだ。

獣医さんは、「これは、本当に大切なテストで、もし、不合格の犬を養子に貰ったら、
その飼い主さんが大変な事になってしまう。もし、子供がいる家だったら、子供をかみ
殺したり、大怪我を負わせる可能性もある。だから、テストに不合格の犬は養子には出
せない」と言っていた。
そして、養子に出せない犬たちは、最後はやっぱり、可哀想だけれど、眠らされてしま
うんだ。
 
獣医さんもジェイクを保護したポリスも、本当にガッカリとして、悲しくなってしまっ
たんだ。あの酷い怪我も治り、毎日おいしいご飯を食べられて、やっと、幸せになりそ

うだったのに、最後の最後で、テストに落ちてしまい、結局は、眠らせなければならな
い。
飼い主がはじめから、ちゃんと、ジェイクを飼ってくれたら、ジェイクはフードアグレ
ッションなんて持たなかったはずなのに。
  
可哀想なジェイク。僕も、合掌。今度、生まれ変わるときには、良い飼い主さんにめぐ
り合って、僕のように、愛されて、可愛がってもらって欲しいよ。これは、僕のジェイ
クへの願いだ。

つづく(次号掲載は4月9日を予定しています)